素因減額
むち打ち損傷の被害者の中には、他覚的所見が乏しく外傷の程度が一見して軽度である場合にも、治療が長期に及ぶ場合があります。
このような場合、加害者(保険会社)は、被害者の既往症などの体質的素因や心因的素因が損害の発生や拡大に寄与しているとして加害者(保険会社)が負担すべき賠償金額の範囲を限定するよう争ってくることがあります。素因減額とは、簡単に言えば、被害者の心因的要因・体質的素因・身体的特徴を考慮して、加害者の損害賠償金額を減額できるかという問題です。
では、どのような素因が考慮されて、損害賠償金額が減額されるのでしょうか。
まず、心因的素因に関しては、裁判所は「損害がその加害行為のみによって通常発生する程度、範囲を超えるものであって、かつ、その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与しているとき」(最判昭和63年4月21日)は、心因的事情を斟酌して賠償額を減額することができると判断しています。
次に、体質的素因に関しては、裁判所は「被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患がともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様程度などに照らし,加害者に損害の全部の賠償させるのが公平を失するとき」(最判平成4年6月25日)は、被害者の当該体質的素因を斟酌して賠償額を減額することができると判断しています。
ただ、裁判所は、単なる身体的特徴を斟酌して賠償額を減額することは原則としてできないとも判断しています。
他覚的所見がないむち打ち損傷で治療が長期に及んでいる方は、示談交渉の際には加害者(保険会社)は素因減額を主張していなかったが、裁判になってから主張してくることもあるので、注意が必要です。